スーパーの精肉売場で「シチュー用」と書かれたパックを手に取り、これで本当に柔らかくなるのだろうかと迷った経験はありませんか。「ビーフシチューを作りたいけれど、肉選びで失敗したくない」という声はよく聞かれます。では、ビーフシチューに合う牛肉は、結局どの部位なのでしょうか。
この記事では、日本食肉消費総合センター(JMI)や農林水産省の資料、メーカー公式レシピの実測を照合し、おすすめの部位と煮込み時間の目安を整理しました。結論を先に言うと、迷ったら「すね肉」を選ぶのが定番です。その理由と、ほかの部位との使い分けを順に解説します。
ビーフシチューの肉のおすすめ
すね肉が選ばれる理由

農林水産省の部位図鑑では、すね肉(ハトチマキ)は「主にカレーとシチュー」に使われる部位と紹介されています。すね肉はコラーゲン(ゼラチン質)が多く、長時間煮込むとゼラチン化してとろける食感になります。さらに、煮込むほど煮汁にとろみがつくのも大きな特徴です。肉そのものがほろほろと崩れるような仕上がりになり、ビーフシチューの濃厚なソースとも相性が良いのです。
このすね肉の評価は、特定の機関だけの見解ではありません。JMI(日本食肉消費総合センター)の解説では牛肉の「すね肉・かた肉・バラ肉」が煮込み向きとされ、PIIF(日本食肉流通センター)の部位解説でも「ともずね」がシチュー向きと明記されています。農林水産省の資料も含め、公的機関の見解が煮込み向きの部位として一致している点が、すね肉を選ぶ大きな根拠になります。
スーパーの「シチュー用」表示の実態
スーパーの精肉売場でよく見かける「シチュー用」「煮込み用」と表示されたパックは、すね肉が主体であることが多いですが、数種類の部位を混ぜた「ミックス」の場合もあります。中身は店によって異なるため、表示だけですべてを判断するのは難しいのが実情です。
確実なのは、パックに「すね」と明記されたものを選ぶか、売場で部位を確認することです。すね肉は「すね」「ともずね」「ハトチマキ」などと呼び方が分かれることがあります。農林水産省の図鑑でも複数の表記が使われているため、同じ部位でも名前が違うことがあると知っておくと、売場で迷わずに済みます。
ビーフシチューの肉の部位別比較
すね肉が定番とはいえ、食卓の好みや予算によっては、ほかの部位が向くこともあります。ここでは代表的な部位の特徴を整理します。牛肉の部位の全体像とそれぞれの詳細は牛肉の部位一覧の記事にまとめています。
バラ肉とかた肉
バラ肉は脂のコクが特徴です。PIIFの部位解説では「ともばら」がシチュー向きと明記されており、濃厚な味わいに仕上げたいときの選択肢になります。脂のうま味が煮汁に溶け出すため、コクのあるビーフシチューを楽しみたいご家庭に向いています。
かた肉やネックも煮込み向きの部位です。JMIの解説では「かた肉」が煮込み向きに挙げられ、PIIFでも「かた・ネック・かたばら」が煮込み向きとされています。比較的手頃な価格で手に入りやすく、エキスが多いのも魅力です。すね肉ほどとろける食感にはなりませんが、しっかりとした食べごたえのある仕上がりになります。
もも肉と肩ロース
もも肉は赤身主体で、あっさりとした味わいが特徴です。農林水産省の部位図鑑では、うちももは「牛肉の中で最も脂肪が少ない」と紹介されています。一方、そとももは「きめは粗いがうまみがあり、サシも入る。煮込みにもよく使われる」とされ、PIIFでは「しんたま」がシチュー向きと明記されています。同じもも肉でも細かい区分によって向き不向きがあるのです。
もも肉を選ぶ際の注意点は、煮込みすぎるとパサつくことです。JMIが「煮込み時間と逆に硬くなってしまうこともある」と解説しているのは、このような赤身主体の部位に当てはまるケースです。あっさりとした仕上がりを好む場合や、ヘルシー志向の食卓にはもも肉が向いていますが、加熱時間の管理が重要になります。
肩ロースは脂とうま味のバランスが良く、失敗しにくい選択肢です。すね肉ほどのとろける食感はありませんが、ほどよい脂のおかげで煮込んでもパサつきにくく、市販のルーを使った時短シチューにも向いています。はじめてビーフシチューに挑戦する方や、家族の好みが分かれる場合の無難な選択肢といえます。
なお、トロトロの食感を楽しみたいなら、すじ肉も選択肢に入ります。すじ肉はコラーゲン質が非常に多く、下処理(ゆでこぼし)をしてから長時間煮込むのが特徴です。トロトロのすじ肉は牛すじ煮込みのレシピの記事で下処理から詳しく解説しています。
| 部位 | 特徴 | 煮込みでの仕上がり | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| すね肉 | コラーゲン豊富・ゼラチン化 | とろける・煮汁にとろみ | 定番・ほろほろ系 |
| バラ肉 | 脂のコク(PIIF:ともばらはシチュー向き) | 濃厚・コク | 濃厚な味わいを楽しみたいとき |
| もも肉 | 赤身・脂肪少(うちもも=最少・そともも=煮込み向き) | さっぱり・煮すぎ注意 | あっさり・ヘルシー志向 |
| 肩ロース | 脂とうま味のバランス | 失敗しにくい | 時短シチュー・市販ルー |
| すじ肉 | コラーゲン質(下処理必要) | トロトロ | こってり系(詳細は別記事へ) |
ビーフシチューの煮込み時間
部位を選んだら、次は「どれだけ煮るか」です。煮込み時間は部位・調理法・肉のサイズによって変わります。ただし、時間より竹串・箸がスッと通るかで判断するのが確実です。ここでは普通鍋と圧力鍋それぞれの目安を紹介します。

普通鍋の煮込み時間
普通鍋で煮込む場合、すね肉は2〜3時間が目安です。JMIは「慌てずに長時間(最低二時間)」と解説しており、農林水産省の牛肉調理資料でも「2〜4時間アクを取りながら弱火」とされています。もも肉は1.5〜2.5時間が目安で、煮込みすぎるとパサつくため注意が必要です。バラ肉は2〜3時間が目安になります。
すね肉には「最初は固く、ある時間を過ぎると急に柔らかくなる」という特徴があります。そのため、2時間煮てもまだ固いからといって諦めてしまうのは早計です。2時間で固くても、さらに30分〜1時間煮込むと急に柔らかくなることがあります。途中で火を止めてしまう前に、追加の加熱時間を確保してみてください。
圧力鍋の煮込み時間
時間を短縮したい場合は圧力鍋が便利です。ガス式の圧力鍋なら、すね肉の角切りで加圧15〜30分が目安です。メーカー公式レシピでは、S&Bが約20分、T-falが高圧18分・低圧20分、貝印が加圧後30分としています。電気圧力鍋の場合は加圧10〜20分で、東芝の公式レシピでは1.8気圧で10分とされています。
ただし、これらの時間はあくまで目安です。機種・圧力・肉のサイズによって時間は変わります。取扱説明書を確認し、加圧後は「箸がスッと通るか」を確かめてから次の工程に進むのが安全です。肉のサイズが大きいほど加圧時間は長くなります。
市販のルーを使う場合は、肉が柔らかくなってからルーを加え、「ふつふつ10分以上」煮込むのが目安です。ハウス食品の公式見解でも、この工程が推奨されています。ルーを入れる前に肉の柔らかさを確認しておくと、仕上がりの失敗を防げます。
| 部位 | 普通鍋 | ガス圧力鍋 | 電気圧力鍋 |
|---|---|---|---|
| すね肉(角切り4〜5cm) | 2〜3時間 | 加圧15〜30分 | 加圧10〜20分 |
| もも肉 | 1.5〜2.5時間(煮すぎ注意) | 加圧10〜20分 | 加圧10分前後 |
| バラ肉 | 2〜3時間 | 加圧15〜30分 | 加圧10〜20分 |
※肉のサイズが大きいほど煮込み時間は長くなります。機種によっても時間は異なるため、仕上がりは竹串や箸がスッと通るかどうかで判定してください。
ビーフシチューの肉を柔らかくするコツ
同じすね肉を買っても、下処理と火加減ひとつで仕上がりは大きく変わります。「煮込んでいるのに固い」「せっかく作ったのにパサついた」という失敗を防ぐには、調理の順番と火のコントロールが重要です。ここでは家庭で再現しやすい3つのポイントを紹介します。
下処理は部位で変わる
ゆでこぼし(下茹で)で脂とアクを落としてから煮込むのが基本です。ただし湯にうま味が流出する面もあります。
すね・バラなどは表面を焼いてから煮るのが一般的。うま味が閉じ込められ、アクの発生も抑えられます(JMI)。
すじ肉(すじが多く入った肉)は、ゆでこぼし(下茹で)をしてから煮込むのが基本です。一方、すね肉やバラ肉などのブロック肉では、表面を焼いてから煮るのが一般的です。焼き目を付けることで肉のうま味が閉じ込められ、煮込み中に出るアクの発生も抑えられます(JMIの解説では、表面を焼いてから煮るとうま味が閉じ込められ、アクの発生を抑えられるとされています)。
ただし、下茹では肉のうま味が湯に流出するというトレードオフもあります。すね肉やバラ肉のように下茹でが必要ない部位では、焼いてから煮るほうが、肉本来のコクを活かせます。
塩・こしょうは、焼く直前にふるのがコツです。下味を長時間置くと、塩の浸透圧で肉の水分が外に染み出し、硬くなる原因になります(ハウス食品の注意事項でも、下味を長時間置くと水分が出て硬くなるとされています)。焼く直前にふって、香りと下味を軽く付ける程度にとどめましょう。
火加減と仕上げのコツ

強火でグラグラと沸騰させると、肉の表面だけが急に熱せられ、中まで火が通る前に水分が飛びます。必ずふたをして弱火〜とろ火を保つこと。アクが浮いたらこまめに取り除きましょう(JMI)。
煮込みの鉄則は、「グラグラと強火で沸騰させない」ことです。強火で沸騰させると肉の表面だけが急に熱せられ、中まで火が通る前に水分が飛んでしまいます。ふたをして弱火〜とろ火でコトコト煮るのが、肉を柔らかく仕上げる近道です。
煮込み中はアクをこまめに取り除きましょう(JMIの解説では、アクは煮込み中に丁寧に取るとされています)。アクは肉や野菜から出る灰汁で、放置すると雑味や臭みの原因になります。また、一度冷ますと味が落ち着き、表面に浮いた脂を取りやすくなります。時間に余裕があれば、煮込みの途中で冷まして脂を取り除く工程を入れると、仕上がりがぐっと上品になります。
市販のルーを使う場合は、肉が柔らかくなってからルーを加え、「ふつふつ10分以上」煮込むのが目安です(ハウス食品の公式レシピでは、肉が柔らかくなってからルーを加え、ふつふつと10分以上煮込むとされています)。ルーを早く入れすぎると、とろみが付いた段階で肉がまだ固いまま煮込むことになり、火の通りが悪くなります。
コラーゲンが熱でどう変化するかなど、柔らかさの仕組みの詳細は牛肉を柔らかくする方法の記事で解説しています。仕組みを知ると、失敗したときの対処法も見えてきます。
ビーフシチューの肉の切り方と失敗診断
柔らかく仕上がらない原因は「煮込み時間」だけではありません。「切り方」と「部位と調理法の相性」も大きく関わります。ここでは切り方の基本と、よくある失敗の原因別診断を紹介します。
切り方のコツ
角切りは4〜5cm角が標準的な目安です(メーカーの公式レシピでは、4〜5cm角が標準的な目安とされています)。加熱すると肉は縮むため、小さく切りすぎず「大きめに切るのが安全」です。小さく切ると火は通りやすいものの、煮込んでいるうちに崩れてしまい、食べごたえも損なわれます。
切り方で意識したいのが「繊維(筋の方向)」です。繊維を断つように切ると、食べたときにほぐれやすくなります。繊維に沿って切ると、噛み切るときに肉の繊維が長く残るため、固く感じることがあります。肉の表面に見える筋の方向を確認し、それに対して直角に包丁を入れるのがポイントです。
また、大きさをそろえることも大切です。大小バラバラだと、小さい方は煮崩れし、大きい方はまだ固いというムラが出ます。4〜5cm角を目安に、なるべく均一なサイズに切りそろえましょう。
失敗の原因別診断
煮込んでも固いままの場合は、煮込み時間が足りない可能性が高いです。すね肉は最初固く、ある時間を過ぎると急に柔らかくなる性質があります。2時間煮ても固いと感じたら、あきらめずにさらに30分〜1時間、弱火で煮込んでみてください。コラーゲンがゼラチンに変わる「とろける瞬間」が、もうすぐそこかもしれません。
逆にパサつく場合は、もも肉などの赤身を長時間・強火で煮すぎた可能性があります。赤身の部位は脂が少ないため、煮込みすぎると肉汁が抜けてパサつきやすくなります。もも肉を使う場合は、1.5〜2.5時間を目安に火を止めるのがポイントです(詳しい時間の目安は前半の部位別比較表をご覧ください)。
脂っぽいと感じる場合は、バラ肉など脂の多い部位を選んだことが原因です。バラ肉はコクがありますが、そのぶん脂も多めです。一度冷まして表面の脂を取り除くと、さっぱりとした味わいになります。冷蔵庫で一晩置けば、固まった脂を簡単に取り除けます。
- 煮込み中はふたをして弱火を保つ(沸騰させない)
- アクはこまめに取る
- ルーや塩を加えるのは肉が柔らかくなってから
失敗の原因別診断表
| 症状 | 主な原因 | 対策 |
|---|---|---|
| 固い | 煮込み時間が足りない(特にすね肉) | さらに30分〜1時間煮る |
| パサつく | 赤身の部位を強火で煮すぎ | もも等は1.5〜2.5時間で火を止め、弱火を守る |
| 脂っぽい | 脂の多い部位(バラ)を選んだ | 一度冷まして表面の脂を取り除く |
よくある質問(FAQ)
Q1. ビーフシチューの肉はすね肉でいいですか?
A. はい。すね肉はコラーゲンが多く、長時間煮込むとゼラチン化してとろけるため、ビーフシチューの定番です。農林水産省の図鑑でもすね肉(ハトチマキ)は「主にカレーとシチュー」と紹介されています。迷ったらすね肉を選ぶと、失敗が少ないです。
Q2. スーパーの「シチュー用」パックは何の部位ですか?
A. すね肉が主体のことが多いですが、数種類を混ぜたミックスの場合もあります。パックに「すね」「ともずね」など部位名が明記されたものを選ぶと仕上がりが安定します。部位名がない場合は、店員さんに聞いてみるのもおすすめです。
Q3. もも肉でビーフシチューを作れますか?
A. 作れます。もも肉は赤身でさっぱり仕上がりますが、煮込みすぎるとパサつくため、1.5〜2.5時間を目安に火を止めるのがポイントです。あっさり系のシチューが好きな方に向いています。
Q4. 煮込んでも肉が固いままです。どうすればいいですか?
A. 煮込み時間が足りない可能性が高いです。すね肉は最初固く、ある時間を過ぎると急に柔らかくなる性質があります。さらに30分〜1時間、弱火で煮込んでみてください。途中でアクを取りながら、コトコトと根気よく煮込むのがポイントです。
Q5. 圧力鍋なら何分でできますか?
A. すね肉の角切りで加圧15〜30分(ガス式)、電気圧力鍋なら10〜20分が目安です(メーカーの公式レシピによる)。機種や肉のサイズで変わるため、加圧後は箸がスッと通るか確認しましょう。
Q6. 牛すじはビーフシチューに使えますか?
A. 使えます。すじ肉はゆでこぼしなどの下処理が必要ですが、トロトロに煮込むとコクが出ます。下処理からの詳しい手順は牛すじ煮込みの記事で解説しています。
精肉売場の「シチュー用」「煮込み用」パックは、すねやかたなど煮込み向きの部位を中心にした組み合わせが多く、その日の仕入れで中身が変わります。部位名まで明記されたパックなら仕上がりが安定しますが、「○○用」と用途だけの表示のものは、売場の方に「どの部位が入っていますか」と聞くのが確実です。切り方は「4〜5cm角にしてください」と頼めば、たいていのお店で対応してもらえます。
まとめ
- 迷ったらすね肉(コラーゲンがゼラチン化してとろける)
- 煮込みは弱火でコトコト(最低2時間・沸騰させない・アク取り)
- 仕上がりは時間でなく「箸がスッと通るか」で判断。固ければさらに30分〜1時間
ビーフシチューは、肉選びと火加減の2つがそろうと、家庭でもお店のような深い味わいになります。この記事の目安を、次の休日のビーフシチューの参考にしてください。
「はじめの肉屋」では、ほかにも肉選び・肉料理に役立つ記事を公開しています。
- 牛肉の部位一覧(部位の全体像)
- 牛肉を柔らかくする方法(柔らかさの科学)
- 牛すじ煮込みのレシピ(すじ肉の煮込み)
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