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低温調理ローストビーフ|温度・時間を徹底解説

「低温調理で作ってみたけれど、硬くなってしまった」「63℃で30分と書いてあるけれど、何の温度を指しているのか分からない」——低温調理ローストビーフの失敗は、温度の解釈のずれから生まれます。低温調理には、湯温設定・中心温度・安全基準という役割の異なる3つの温度があり、たとえば牛もも300g(厚さ3cm)を63℃の湯に漬けた場合、肉の中心が63℃に達するまでに約94分、そこからさらに30分の保持で合計約130分かかります。

本記事では、食品安全委員会の加熱条件や厚生労働省の同等条件表、技術資料(Baldwin)をもとに、温度と時間の考え方を整理しました。精肉の現場で扱う部位ごとの特性も踏まえながら、失敗しない設定の選び方をお伝えします。

「63℃30分」は、湯温を63℃に、ではありません。
肉の中心が63℃に達してから、30分保持する意味です

湯温設定・中心温度・安全基準の「3つの温度」を区別することが成功の鍵

目次

低温調理ローストビーフの仕組み

低温調理器で調理中のローストビーフ

なぜ低温調理でしっとり仕上がるのか

ローストビーフを低温調理で作ると、なぜあんなにしっとりやわらかく仕上がるのでしょうか。その秘密は、肉のたんぱく質と水分の関係にあります。牛肉は加熱されると、肉の中のたんぱく質が熱によって収縮し、同時に水分が外に押し出されます。この現象が強く起こるのが、中心温度が70℃を超えたあたりからです。一方、低温調理は肉の中心温度を55〜60℃程度に抑えるため、たんぱく質の過度な収縮を防ぎ、肉の中のうまみ成分ごと水分を閉じ込めたまま仕上げられます。

ただし、すべての部位が低温調理に向くわけではありません。牛すねやスジ肉などに多く含まれるコラーゲン(結合組織)は、75〜85℃の加熱でゼラチン状に分解されてやわらかくなります。低温調理の温度帯ではこの分解が進まないため、すね肉などは低温調理するとかえって硬く仕上がってしまいます。低温調理に向くのは、もともとやわらかいローストビーフの作り方で紹介しているももやランプ、ロースといった部位です。

低温調理に向く部位と下ごしらえ

低温調理に向く部位の代表格は、牛もも肉の「かたまり(ブロック)」です。もも肉は脂肪が少なく赤身がしっかりしているため、中心温度を低く保つ低温調理との相性が抜群です。ランプやロースも同様に、かたまり肉としてスーパーで手に入りやすい部位です。サーロインやリブロースのような霜降りの多い部位でも作れますが、脂が多いぶん加熱による溶け出しが気になる場合は、少し低温めの設定がおすすめです。

下ごしらえの基本は、筋切り、塩ふり、そして室温に戻す作業です。ただし、これらの詳細はすでにローストビーフの作り方で詳しく解説しています。低温調理に限らず全調理法に共通する内容ですので、そちらをあわせてご覧ください。低温調理では、肉を袋に入れる前に表面の水分をしっかり拭き取っておくことも大切です。余分な水分が残っていると、加熱中に肉汁が袋の中ににじみ出る原因になります。

湯温設定
低温調理器や湯せんで設定する「お湯の温度」。好みの仕上がりに合わせて55〜60℃帯から選ぶ。
中心温度
肉のいちばん厚い部分の内部温度。温度計で実測する。「何℃まで達したか」が仕上がりを決める。
安全基準
中心63℃に到達したあと、さらに30分間保持する(食品安全委員会の家庭向け加熱条件)。湯温ではなく中心温度で考える。

低温調理の3つの温度

3つの温度を区別する

低温調理でつまずく人の多くは、「何度で何時間」という情報を1つの温度だけで理解しようとするところにあります。実は、低温調理には「湯温設定」「中心温度」「安全基準」という、役割の異なる3つの温度が存在します。この3つを区別して理解することが、低温調理ローストビーフを成功させる最大のポイントです。

1つ目は「湯温設定」です。これは低温調理器や湯せんで設定するお湯の温度で、好みの仕上がりに合わせて55〜60℃帯から選びます。2つ目は「中心温度」です。これは肉のいちばん厚い部分の内部温度で、温度計で実際に測る値です。湯温設定と中心温度は同じではありません。肉は冷蔵庫から出したばかりなら5℃前後ですから、湯温に達するまでに時間がかかります。3つ目は「安全基準」です。これは食中毒のリスクを避けるために、中心温度が一定の温度に達したあと、さらにどれだけ保持する必要があるかという基準です。

湯温設定の目安表

湯温設定の目安は、技術資料(Baldwin)によると、レアで50℃、ミディアムレアで55℃、ミディアムで60℃とされています。これはあくまで食味の目安であり、安全基準を満たしたうえで好みに合わせて選びます。一方、実際のメーカー公式の設定例を見ると、湯温55〜58℃で3〜4時間という例が多く見られます。以下の表で、湯温設定の目安とメーカー公式の設定例をまとめました。

区分 湯温設定 加熱時間の目安 出典・備考
レア(食味目安) 50℃ 厚さによる 技術資料(Baldwin)
ミディアムレア(食味目安) 55℃ 厚さによる 技術資料(Baldwin)
ミディアム(食味目安) 60℃ 厚さによる 技術資料(Baldwin)
BONIQ(牛もも500g・厚さ4cm) 57℃ 4時間15分 メーカー公式設定例
アイリスオーヤマ(牛ロース400g・厚さ5cm) 57℃ 3時間 メーカー公式設定例
ツヴィリング(牛ロース200g) 55℃ 50分 メーカー公式設定例
グリーンハウス 58℃ 1時間 メーカー公式設定例
ティファール(電気圧力鍋・牛もも400g・厚さ5cm) 65℃ 1時間30分 メーカー公式設定例
クラシル(バーミキュラ保温機能・牛もも500g) 70℃ 60分 メーカー公式設定例

この表を見ると、メーカーによって設定温度と時間が異なることがわかります。これは肉の厚さや量、メーカーが想定する仕上がり(レア寄りかミディアム寄りか)の違いによるものです。大切なのは「このメーカーがこうだから絶対これ」と決めつけず、湯温設定・中心温度・安全基準の3つを区別して、自分の肉の厚さに合わせて考えることです。

低温調理の安全基準

中心63℃到達後30分の意味

「63℃で30分」という言葉を聞いたことがある方は多いでしょう。この数字は食品安全委員会が家庭向けに示している加熱条件の1つです。ただし、ここで注意したいのは、この「63℃」は湯温設定のことではなく、肉の中心温度が63℃に到達したあと、さらに30分間その状態を保持するという意味だということです。

つまり、湯温を63℃に設定したからといって、すぐに安全になるわけではありません。肉の中心が63℃に達するまでには、肉の厚さや量に応じて時間がかかります。食品安全委員会の実測では、牛もも300g(厚さ3cm)の場合、63℃の湯に漬けてから中心温度が63℃に到達するまでに約94分かかります。さらに30分保持すると、合計で約130分の加熱時間になります。同じ300gの肉でも、70℃や75℃の湯なら中心到達まで約100分です。牛もも760g(厚さ6cm)になると、70℃の湯で中心到達まで約180分かかるという実測結果もあります。

肉のサイズ 湯温 中心到達までの時間 安全保持時間 合計の目安
牛もも300g(厚さ3cm) 63℃ 約94分 30分 約130分
牛もも300g(厚さ3cm) 70℃ 約100分 3分 約103分
牛もも300g(厚さ3cm) 75℃ 約100分 1分 約101分
牛もも760g(厚さ6cm) 70℃ 約180分 3分 約183分

この表は食品安全委員会の実測データに基づいています。低温調理器の湯温を63℃に設定して「63℃30分だから大丈夫」と早とちりすると、中心温度が63℃に達する前に加熱を終えてしまうことになりかねません。中心温度計で実際の肉の内部温度を確認することが不可欠です。

安全を満たす3つの選択肢

家庭で低温調理をする場合、食品安全委員会の基準を満たす加熱条件は、以下の3つから選ぶのが基本です。

  • 中心温度63℃に到達したあと、さらに30分間保持する
  • 中心温度65℃に到達したあと、さらに15分間保持する
  • 中心温度75℃に到達したあと、1分間保持する

厚生労働省の同等条件表でも、75℃で1分、70℃で3分、69℃で4分、68℃で5分、67℃で8分、66℃で11分、65℃で15分というように、中心到達後の保持時間が示されています。いずれも中心温度が基準に達してからの時間です。

ここで注意したいのは、65℃15分や75℃1分という条件は、ローストビーフの食味(レア〜ミディアムレア)とは両立しにくいという点です。食味の目安として、JMI(日本食肉消費総合センター)はレアを55〜65℃以下、ミディアムレアを約65℃、ミディアムを65〜70℃としています。ただし、これはあくまで食味の目安であり、安全基準ではありません。焼き加減ごとの見た目と食感の違いは、レア・ミディアム・ウェルダンの違いの記事で解説しています。USDA(米国農務省)もローストは145°F(62.8℃)に到達したあと、最低3分間休ませることを推奨しています。

つまり、レア〜ミディアムレアの食感を楽しみたい場合は、63℃到達後30分の条件が現実的な選択肢です。一方、幼児・高齢者・妊婦・免疫が低下している方は、75℃で1分以上の加熱を推奨します。ご自身の体調や、食べる相手に合わせて条件を選ぶことが大切です。

低温調理の誤解と正解

「58℃28分で安全」の正体

低温調理の情報を調べていると、「58℃で28分加熱すれば安全」という記述を目にすることがあります。この数字は、事業者向けの「特定加熱食肉製品」の規格に由来しています。しかし、この規格は厳密に管理された原料肉を前提とした事業者向けの基準であり、家庭の牛肉には適用されません。食品安全委員会の資料でも、この点は2024年3月5日の改訂で明確にされています。

事業者向けの規格では、原料肉の衛生管理や加工環境が徹底されていることが前提です。一方、家庭でスーパーなどで購入した牛肉には、表面に菌が付着している可能性があります。また、家庭の冷蔵庫や調理環境は事業者の管理水準には及びません。したがって、家庭ではより厳しい条件である「中心63℃到達後30分」を基本とすべきです。

誤解 正しい理解 根拠
58℃28分で安全 事業者向け規格であり家庭には非適用 食品安全委員会(2024年3月5日改訂)
炊飯器の保温は低温調理と同じ 機種により温度が一定でない メーカー公式FAQ
真空パック=殺菌されている 真空は酸素を減らすだけ 食品衛生の基礎知識
表面を焼けば中レアで安全 内部まで加熱しないと不十分 食品安全委員会の基準
断面の色で火が通ったと判断できる 色は加熱の目安にならない 食品安全の原則

炊飯器の保温と真空パックの誤解

炊飯器の保温機能でローストビーフを作る方法は広く知られています。しかし、炊飯器の保温温度は機種によって異なり、一定に保たれないことがメーカーの公式FAQでも明らかにされています。また、特定の温度を指定することもできません。炊飯器のローストビーフの記事でも詳しく解説していますが、炊飯器を使う場合は温度計で湯温を確認しながら進める必要があります。

もう1つの誤解が、「真空パック=殺菌されている」という思い込みです。真空パックは袋の中の酸素を減らすだけで、殺菌効果はありません。むしろ、酸素のない環境はボツリヌス菌のような嫌気性菌が増殖しやすい条件を作り出します。真空パックした肉を常温で放置するのは大変危険です。調理後も冷蔵保存を徹底しましょう。

断面の色で判断できない・「表面を焼けば中レアで安全」ではない

ローストビーフの断面がきれいなピンク色だと「中まで火が通っていないのでは」と心配になる方もいます。しかし、肉の断面の色は加熱の程度と必ずしも一致しません。低温調理で中心温度が63℃に達した肉でも、ミオグロビン(肉の赤い色素)の状態によってピンク色を保つことがあります。逆に、中心温度が十分に上がっていなくても、肉の種類やpHによっては茶色っぽく見えることもあります。色や見た目で安全性を判断するのは避け、必ず温度計で中心温度を確認してください。

また、「表面を強火で焼けば、中がレアでも安全」という考え方も誤りです。食中毒の原因となる腸管出血性大腸菌(O157など)は、肉の表面だけでなく内部に存在する可能性があります。特に、かたまり肉をスライスする際に包丁やまな板を介して内部に菌が移る二次汚染のリスクもあります。表面を焼くことは風味づけには有効ですが、殺菌の代わりにはなりません。

低温調理器で作るローストビーフの手順

基本の手順

低温調理器を使う場合の基本の手順を、BONIQの公式設定例(牛もも500g・厚さ4cm・冷蔵のまま57℃4時間15分)をもとに解説します。

01
牛肉の表面の水分を拭き取り、必要に応じて塩をふる(後塩する場合はこの段階ではふらない)
02
肉をジッパー袋または真空パック用の袋に入れ、できるだけ空気を抜いて密封する
03
低温調理器を設定温度(この例では57℃)に予熱する
04
袋に入れた肉を湯の中に沈め、完全に水没させる
05
設定時間(この例では4時間15分)加熱する
06
加熱終了後、袋から肉を取り出し、表面の水分を拭き取る
07
フライパンなどで表面を強火で短時間焼き、香ばしさを加える
08
好みで塩やスパイスをふってから、スライスする

この手順で重要なのは、肉を湯に完全に沈めることと、設定時間を守ることです。肉の一部が湯から出ていると、その部分の加熱が不十分になります。また、低温調理器の設定温度は湯温であり、中心温度ではないことを忘れないでください。厚さ4cmの肉なら上記の時間で中心まで火が通りますが、厚さが違う場合は時間の調整が必要です。

真空シーラーとジッパー袋の使い分け

低温調理用の袋には、真空シーラーを使う方法と、ジッパー袋を使う方法があります。真空シーラーは袋の中の空気を完全に抜けるため、肉と湯の熱伝導が良くなり、加熱ムラが起きにくいという利点があります。一方、ジッパー袋を使う場合は「水没法」というテクニックを使います。袋に肉を入れてジッパーをほとんど閉じ、袋の口だけを残して湯の中に沈めると、水圧で袋の中の空気が押し出されます。空気が抜けたところでジッパーを完全に閉じれば、簡易的な真空状態を作れます。

どちらの方法でも、耐熱性のある袋を使うことが大前提です。低温調理は60℃前後の湯温で長時間加熱するため、耐熱温度の低い袋は破損や溶出のリスクがあります。また、袋の中に空気だまりが残ると、その部分が浮いてしまい、均一に加熱されません。袋の中の空気はできるだけ完全に抜くことが、仕上がりの均一さにつながります。

低温調理器なしで作る低温調理

湯せん方式の条件

低温調理器を持っていない場合でも、大きめの鍋と温度計があれば低温調理は可能です。ただし、湯せん方式には厳しい条件があります。それは、湯温を一定に保ち続けるために、温度計で湯温を確認しながら加熱を調整し続ける必要があるということです。コンロの火加減は一定でも、鍋の湯温は放熱によって下がり続けます。数分おきに湯温をチェックし、火加減を調整する作業が数時間続きます。

湯せん方式で湯温を管理するコツは、次のとおりです。

  • 鍋は大きめのものを使い、湯量をたっぷり確保する(湯量が多いほど温度変化が緩やか)
  • 鍋底に皿やシリコン製の敷きものを入れ、袋が直接鍋底に触れるのを防ぐ
  • 温度計は湯の中に固定し、常に視認できる位置に置く
  • 湯温が下がったら強火に、上がりすぎたら弱火にして調整する
  • 余熱任せにしない(火を止めたら湯温は下がる一方です)

湯せん方式は低温調理器に比べて手間がかかりますが、温度管理さえ徹底すれば同じ原理で調理できます。どうしても目が離せない場合は、低温調理器の導入を検討するのも1つの方法です。

炊飯器とオーブンの低温

炊飯器の保温機能を使う方法は手軽ですが、炊飯器の保温温度は機種によって異なり、一定に保たれないことがメーカーの公式FAQで明らかにされています。また、特定の温度を指定することもできません。炊飯器で作る場合は、湯温を温度計で確認しながら、中心温度が安全基準を満たすように管理する必要があります。詳しい手順と注意点は炊飯器のローストビーフの記事で解説しています。

オーブンの低温調理も可能ですが、オーブンの設定温度は庫内の気温であり、肉の中心温度とは異なります。オーブンの庫内温度は設定温度に対して±10℃以上ずれることも珍しくありません。オーブンを使う場合は、庫内にオーブン用の温度計を置き、実際の庫内温度を確認しながら調理してください。また、オーブン調理は湯せんに比べて熱伝導が悪いため、同じ厚さの肉でも加熱時間が長くなります。

低温調理後の仕上げの焼き方

仕上げに焼き色をつけた低温調理ローストビーフ

後炙り

低温調理で中心まで火を通した肉は、このままでも食べられますが、表面が灰白色で見た目が今ひとつです。そこで必要になるのが「後炙り」です。低温調理後の肉は、袋から取り出したらまずキッチンペーパーで表面の水分をしっかり拭き取ります。水分が残っていると、フライパンで焼いたときに蒸気が出て、表面に焼き色が付きにくくなります。

フライパンを強火でしっかり予熱し、油を薄くひいてから肉を入れます。各面20〜30秒程度を目安に、手早く焼き色を付けます。ここでの目的は香ばしさと見た目の向上であり、内部を加熱することではありません。焼きすぎると内部の温度が上がり、せっかくのレア〜ミディアムレアの仕上がりが台無しになります。全面に焼き色が付いたらすぐに火を止めましょう。

焼くタイミングと塩のタイミング

低温調理後の後炙りは、食べる直前に行うのが基本です。炙ったあとの肉は内部温度が少し上がりますが、放置すると余熱でさらに温度が上がり続けます。焼き上がったらすぐにスライスして盛り付けるか、アルミホイルに包んで短時間休ませる程度にとどめましょう。

塩のタイミングも重要です。低温調理の前に塩をふると、加熱中に肉汁とともに塩分が袋の中ににじみ出てしまいます。低温調理後、後炙りをしてから塩をふる「後塩」の方が、塩の風味がしっかりと肉に残り、肉本来のうまみを引き立てることができます。後塩する場合は、炙った直後の熱いうちにふると、表面にほどよく溶けてなじみます。好みで黒こしょうやハーブをあわせるのもおすすめです。

低温調理で気をつけたい3つのこと
  • 「63℃=湯温設定」と誤解しない(湯温を63℃にしても、中心が達するまで時間がかかる。芯温の確認が必須)
  • 3つの温度を区別する(湯温設定・中心温度・安全基準は役割が違う。1つの温度だけで判断しない)
  • 加熱不足は食中毒リスク(低すぎる温度・短すぎる時間では殺菌が不十分。中心63℃30分の条件を守る)

低温調理の失敗と対策

失敗例×原因×対策の表

低温調理は温度と時間の管理がすべてといっても過言ではありません。ここでは、よくある失敗とその原因、対策を表にまとめました。

失敗例 原因 対策
肉がゴムのように硬い 加熱時間が長すぎる/湯温が高すぎる 湯温設定と加熱時間を見直す。厚さに合った時間を守る
パサついてしまう 中心温度が上がりすぎた/後炙りで焼きすぎた 中心温度計でこまめに確認。後炙りは各面20〜30秒程度に抑える
袋が浮いてしまう 袋の中の空気が抜けていない 水没法で空気を抜く。重しをのせるのも有効
加熱ムラがある 湯の対流が起きていない/肉が湯に完全に浸かっていない 低温調理器の循環機能を確認。肉を完全に水没させる
中心温度が思うように上がらない 加熱時間の見積もりを間違えている 厚さ別の中心到達時間を参考に、余裕をもった時間設定をする
袋の中に肉汁がたくさん出る 下ごしらえで塩をふりすぎた/加熱時間が長すぎる 後塩にする。加熱時間を適正化する

低温調理の失敗の多くは、温度と時間の管理に起因します。特に、「なんとなく2時間くらい」という曖昧な時間設定が、硬い肉やパサつきを生む最大の原因です。肉の厚さを測り、適切な時間を設定しましょう。

温度計の使い方と点検

低温調理で最も重要な道具が中心温度計です。市販の温度計の精度はおよそ±1〜2℃とされています。この誤差は、安全基準のわずかな差(63℃と65℃)を判断する際には無視できない大きさです。そこでおすすめしたいのが、温度計の簡易点検です。氷水(氷と水を混ぜたもの)は0℃、沸騰しているお湯は約100℃になります。この2点で温度計の表示を確認すれば、大きなズレがないかどうかをチェックできます。

中心温度計を肉に挿す際は、袋の上から挿すと針穴から湯が入り込む可能性があります。袋に挿す場合は、挿した部分をテープなどでシールするか、加熱終了後に袋を開けてから中心温度を測る方法が確実です。また、温度計の針は肉のいちばん厚い部分の中心に挿さなければ、正しい中心温度は測れません。針が骨に当たったり、肉を突き抜けたりしないように注意してください。温度計の基本的な使い方の詳細はローストビーフの作り方で解説しています。

よくある質問(FAQ)

Q1. 低温調理ローストビーフは何度で何時間加熱すればいいですか?
A. 好みの仕上がりと安全基準の両方を満たすには、中心温度63℃到達後30分が基本です。湯温設定の目安はレア50℃・ミディアムレア55℃・ミディアム60℃ですが、実際のメーカー公式設定例では57℃で3〜4時間が多く見られます。厚さ4cmの牛もも500gなら57℃で4時間15分(BONIQの例)が目安です。必ず中心温度計で確認してください。

Q2. 炊飯器の保温機能で代用できますか?
A. 炊飯器の保温は機種によって温度が一定でなく、特定の温度を指定できないため、低温調理器の代用にはなりません。どうしても炊飯器を使う場合は、温度計で湯温を確認しながら中心温度が安全基準を満たすように管理してください。詳しくは炊飯器のローストビーフの記事をご覧ください。

Q3. 「58℃28分」で安全という情報を見ましたが、なぜダメなのでしょうか?
A. 「58℃28分」は事業者向けの「特定加熱食肉製品」の規格であり、厳密に管理された原料肉が前提です。家庭で購入する牛肉には表面に菌が付着している可能性があり、家庭の調理環境も事業者とは異なります。食品安全委員会(2024年3月5日改訂)でも、この基準は家庭には適用されないとされています。家庭では中心63℃到達後30分を基本にしてください。

Q4. 低温調理器なしで湯せんだけで作るときの注意点は?
A. 湯温を一定に保ち続けることが最大の条件です。温度計で湯温を確認しながら、数分おきに火加減を調整する必要があります。余熱任せにすると湯温が下がり、中心温度が安全基準に達しないまま調理が終わってしまいます。鍋は大きめのものを使い、湯量をたっぷり確保すると温度変化が緩やかになります。

Q5. 厚すぎる肉や大きすぎるかたまり肉を使う場合はどうすればいいですか?
A. 食品安全委員会の実測では、牛もも760g(厚さ6cm)は70℃の湯で中心到達まで約180分かかります。技術資料(Baldwin)によると、厚さ2cmで約50分・4cmで2時間30分・6cmで4時間45分(平板・冷蔵5℃スタート)です。厚さ2倍で時間は約4倍になると考えてください。厚い肉ほど加熱ムラのリスクが高まるため、できるだけ厚さを均一にし、中心温度計で必ず確認しましょう。

Q6. 低温調理したローストビーフの保存と再加熱の方法は?
A. 調理後はすみやかに冷蔵保存し、2〜3日以内に食べきるのが目安です。再加熱する場合は、中心温度が75℃に1分以上達するように加熱してください。電子レンジでの再加熱は加熱ムラが起きやすいため、湯せんで袋のまま温めるか、フライパンで表面を焼く方法がおすすめです。一度加熱したものを再び冷蔵保存するのは避けましょう。

まとめ

温度と時間の早見表

ここまでの内容を、最後に1枚の早見表にまとめました。低温調理でローストビーフを作るときは、この表を印刷してキッチンに貼っておくと便利です。

項目 温度・時間 備考
湯温設定の目安(レア) 50℃ 技術資料(Baldwin)
湯温設定の目安(ミディアムレア) 55℃ 技術資料(Baldwin)
湯温設定の目安(ミディアム) 60℃ 技術資料(Baldwin)
安全基準(基本) 中心63℃到達後30分 食品安全委員会
安全基準(代替) 中心65℃到達後15分 厚生労働省の同等条件表
安全基準(代替) 中心75℃到達後1分 厚生労働省の同等条件表
厚さ別の中心到達時間(平板・冷蔵5℃スタート) 2cm=約50分/4cm=2時間30分/6cm=4時間45分 技術資料(Baldwin)
厚さ別の中心到達時間(円柱状) 2cm=約30分/4cm=1時間15分/6cm=2時間30分 技術資料(Baldwin)
高リスク者の加熱条件 中心75℃1分以上 食品安全委員会

この表のポイントは、湯温設定と安全基準は別物

関連記事の案内

低温調理の考え方は、ローストビーフの作り方の記事の「焼き方の種類」でも流派のひとつとして解説しています。焼き加減と温度の関係はレア・ミディアム・ウェルダン、炊飯器を使う方法は炊飯器のローストビーフの記事をあわせてご覧ください。

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